« 2017年12月 | メイン | 2018年10月 »

2018年2月

2018年2月14日 (水)

楽器業界 vs. Amazon

 
時折Marshall Blogで触れているように、私は楽器オタクでは全くない。
よくいるでしょ、「歩くカタログ」みたいな人…その商品を持ってもいないし、使う予定もないのに、型番、仕様、値段まですべてアタマに入れている人ね。
そういうことはただの一度もしたことがないし、楽器屋さんに入り浸る…なんてこともしたことがなかった。
子供の頃は楽器屋さんがコワくもあった。
髪の毛を腰のあたりまで伸ばして、声高に仲間やお客さんとロックの話をしている楽器屋のお兄さんがコワかったのだ。
そして、そのお兄さんがギターを手にして弾き出すと、そのあまりのウマさに感動したものだった。
今から40年ぐらい前の話。
そんな我々の世代の人たちが口を揃えて言うのが、「楽器屋さんのお兄さんはコワかったけど、色んなことを教えてくれた」というヤツ。
私は行きつけの楽器屋さんを持っていなかったので、そういう経験がほとんどなかった。
ロックに関する知識は本やレコードの解説書を耽読して自分で切り開いたし、ギターも完全に独学だった。
でも、やっぱり楽器屋さんに行くのは楽しかったナ。
   
今日はそんな楽器屋さんが絡むアメリカの楽器業界の現状について。
この記事をMarshall Blogに載せようかどうか直前まで迷ったが、ヤメた。
内容に私個人の感情や考えが大きく反映してしまい、Marshallの名の下でそれを書くのもどうかと思ったからだ。
片や、今世界でナニが起こっているのかを皆さんにお知らせしたい…なんて言うと大ゲサだけど、代表者気分で海外で見聞きしてきたことをこの狭い島国で喧伝するのはやっぱりいいことだと思うのね。
だから書いた。
では…。
   
先日のNAMMショウの時のこと。
Marshall Blogで紹介した「UP BEAT」という日刊の情報誌の他にも会場では様々なフリーペーパーが配布されている。
フリー・ペーパーというより雑誌のサンプルと言った方が適切か。
持って帰ってもどうせ荷物になるので、Marshallがフィーチュアされているとか、Frank Zappaが出てるとかいうことがない限り、普段はそういう類のモノを手にすることはまずないのだが、ある時、1冊の黄色い表紙の「The Retailer」という雑誌のサンプルが私の目を捉えた。
それにはこういう見出しがついていた。
 
MI vs Amazon (音楽業界対アマゾン)
  
「MI」というのは「Music Industry」のことね。
「数年後、世界中の街中で開いているお店は銀行とスターバックスとマクドナルドだけになる」…なんて物騒なことをMarshallの誰かがかつて言っていたのを思い出したのだ。
旧態依然とした佐幕派の私のこと、チョット前まで「通販なんて誰が使うか!」とキメ込んでいた。
しかしですよ、ナニを最初にAmazonで買ったのかは覚えていないが、蟻の一穴、それからアレよアレよと利用するようになってしまった。
私が最も活用しているのは書籍なのね。
CDは中古レコード店で受動的に出くわしたモノをランダムにゲットすることが愉しみなので、輸入の新譜(といってもZappaだけ)を買う時だけにしかAmazonを利用することはない。
一方、書籍。
高いでしょう、本?
最近は文庫本でも「コレ、ミスプリントなんじゃねーの?」と訝しんでしまうぐらいの値段が付いてるもんね。
だから私は、中古。
ところが、書籍は仕事で使う目的で探すことも多く、ブックオフに通って偶然を待っていたらラチが開かない。
そこで登場するのがAmazon。
欲しい本の情報を入力して、中古で状態が良さそうなものがあればポチ…と。
たとえ送料が上乗せになっても新品で買うよりはずっと経済的だ。
さすがにコレには凄まじい利便性を感じるよね。
それと家電。
どこで買っても同じモノは、お店で商品を確認して、Amazonとの値段を比較して安い方でゲット…なんてことをしたくなるのは人情でしょう。
最近は町の電気屋さんも姿を消し、量販店ばかりになってしまったので、上の楽器屋さんのように馴染みの電気屋さんで家電製品を買うなんてこともなくなった。
「せっかくならショウちゃんのところで買ってやろう」みたいな近所づきあいね。
それに人件費の高騰により、「チマチマ修理しているより買い換えた方が早くて安い」という時代が到来し、修理の時に備えて町の電気屋さんで買うという必要性も皆無になった。
で、今度は量販店と通販の戦いになっているワケだ。
そういえば、先日、私が「ひとり不買運動」をしている家電メーカーのラジカセを買った。
本当はイヤだったんだけど、どうしても欲しい仕様の商品を出しているのがそのメーカーだけだったので仕方なくそれをAmazonで買った。
大学の時にカセットテープに録り溜めていた落語のコレクションをCDにするために、SDカードにデジタル・コピー(←正しくはなんて言うの?)したかったのだ。
すると…壊れた。
アっという間だった。
さすが私が不買運動をキメているメーカーの品物だけあって、ひと月もしないウチにカセットのフタの開閉が出来なくなってしまったのだ。
このメーカーは海外との原発の合弁事業をしくじって上場を取り消されそうになった超大手のアソコね。
そんなこともあろうかと覚悟していたせいもあったので、そうハラも立てずに修理に出すことを決心したが、保証書を捨ててしまったことに気がついた。
さすがにひと月じゃ買い換えられないしね。
恐る恐るそのメーカーのカスタマー・サービスに相談した。
「Amazonでラジカセを買ったんですが、すぐに壊れてしまって…」
ココで無料修理を断られたらブチ切れる予定にしていた。
すると電話に出た女性がこう言った。
「あ、Amazonさんでお買い上げですか?保証書がない?ハイハイ、Amazonさんのウェブサイトでお買い物履歴を見ることができますので、それをプリントアウトして持って来て頂ければ大丈夫です!」
はじめは「Amazonで買ったからダメ」みたいなことを言われるかと思っていた。
保証書なんてものは買った日が特定できればいいワケなので、Amazonのウェブサイトが指し示す購買の履歴は公明正大に他ならないということのだ。
ナンだよ、やるな~、Amazon…と思わざるを得ないではないか。
 
さて、では楽器業界とAmazonの関係はどうか?
こちらはそれほど穏やかなモノではないようだった。
NAMM会場でもらって来た「The Retailer」のサンプルの記事を抄訳してアメリカでナニが起こっているかをレポートしてみるね。
 
2_img_0073この記事が言うには…
「アマゾンは体重600ポンド(270kg)のゴリラだ。(どうしてゴリラかというと、この後の原文に出て来る「goliath(ゴライアス)」に引っ掛けてるの。「goliath」とは「きわめて大きい人」や「大企業」を意味する)
新しい分野に参入したり、他社を買収したりして有機的に成長を続けている。
2016年の売り上げは  136ビリオン・ドル(約15兆円)にして利益が2.37ビリオン・ドル(約2,600億円)となっている。
このデータにはWhole Foods Market(ホールフーズ・マーケット:アメリカを中心にカナダとイギリスを合わせて270店舗以上を展開する自然食品、オーガニックフード、ベジタリアン・フード、輸入食品、各種ワイン等を販売する食料品スーパーマーケットの巨大チェーン)の買収による売上高を勘定に入れていないので実際の売り上げや利益は途方もない数字に上る。
更に薬品業界や他の業界に食指を伸ばしたら一体どんなことになるのやら?
2017年9月末にはインターネットでの売り上げ高を34%伸ばし、NASDAQでガツンと株価を上げた。
財務の観点からすると、ビットコインに次いですべての追い風はアマゾンに吹いている」…というぐらい、本国でも破竹の勢いを続けている。
 
ところが…。
世の中、顧客サービスの良さと素早い出荷を称賛するAmazonファンだけではなくて、その業態を決して快く思わない客もいる。
そのひとつが楽器業界の一部というワケ。
2_img_0077どういうことを言っているのかというと…
 
「昨今楽器業界は2つの点においてAmazonに煮え湯を飲まされた。それは、返品のポリシーと偽物の販売だ。
事実、Electro-Harmonix社はこのことが原因でAmazonとの関係を解消することを宣言した」
 
ナニが起こったのか?
以下はElectro-Harmonix社のおエライさんの見解。
「Amazonは、理由の如何に関わらず、問答無用でお客さんからの返品を受けて返金してしまう。
お客さんが商品に不具合を見つけると、すぐにAmazonに商品を送り返すのだ。
商品の返品にかかるの運賃は、メーカーが負担するということになっているので、かなりのコストアップに感じる」
事実、複数の商品が戻って来た時などは、経費がかなりかさんでしまうらしい。
返品された商品をチェックしてみると、「ナンだよ、壊れてないじゃん!」などという、お客さんの不注意や認識不足が原因となる返品も少なくないのかも知れない。
 
また、インターネット・ビジネスが発達しているアメリカにはMAPという制度が認められている。
「MAP」というのは「Minimum Advertised Price」の略で、メーカーは「公告で掲載できる最低の価格はココまでですよ」ということを法的に定めることができる。
日本にはこの法律はない。
だから「オープンプライス」にしちゃう。
さて、このMAPのおかげで「よその店より安く値付けしてたくさん売っちゃおう!」ということができない仕組みになっているのね。
値段一発で勝負する傾向が強いインターネット・ビジネス上での安売り戦争を食い止める手段のひとつだ。
さもないと「Dog Eat Dog」でメーカーも小売店もみんなブッ倒れちゃうから。
このMAP関連でもAmazonは問題を抱えていると楽器業界の一部は考えているというのだ。
というのは、日本でもやっていることだが、市中の楽器店がAmazonに商品を委託してAmazon経由で販売しているケースがある。
Amazonはそれぞれの商品のMAPなんて知ったこっちゃないから、その小売店がMAPの値段を下回って販売委託してしまう。
もちろんコレは重大なルール違反なので、メーカーや他の小売店にとっては大きな問題となる。
メーカーはそのMAPを下回って出品している商品のシリアル・ナンバーを調べて、当該の小売店に警告することしかこの問題の解決策はないのだが、Amazonでコレをやられるとそのシリアル・ナンバーの追跡ができないのだそうだ。
すると、どういうことになるかというと、「じゃ、ウチも!」ということになってアッという間に値崩れを起こして「Dog Eat Dog」!
アメリカの多くの小売店はElectro-HarmonixがAmazonと手を切ってよろこんでいるのだそうだ。
 
まだある。
Sound Enhancementという「Morely」や「Ebtech」を持っている会社。
この会社のCEOがトップ・ディーラーのいくつかを訪れた時、こう言われたのだそうだ。
「アナタの会社がやるべきこと…製品をアップグレードすること、それからウェブサイトを作り直すこと。そしてAmazonと手を切ること」
このCEO、始めはこの発言に驚いてしまったが、あちこちから同じことを聞くようになったのだとか。
 
そのCEOの見解。
「小売店は我々の商品の本当の価値をお客さんにお届けしてくれる。
彼らは我々の商品に精通していて、その情報をお客さんに分け与えることをサービスとしているワケだ。
製品をどう使うか、そのコツはナニか、関連する商品にはどういうモノがあるか…必要であればそういう情報を開示してお客さんのお世話をする。
そのために我々は、人材に投資をして、教育を授けている。
それが小売店の顧客サービスだと考えるからだ。
ところがAmazonアマゾンを見てみろ!
そんなこと一切お客さんにしていないじゃないか!
しかも何か問題が起こっても人間的な解決は期待できないんだよ。
そしてお客さんも、できることと言ったら「ガッカリしました」というメモを添えて商品をAmazonに送り返すことぐらいサ」

 
この他にパチモンの問題も重要視されているようだ。
要するにニセモノ。
粗悪なニセモノ商品が堂々と流通していることがあるらしい。
コレも困るぜ~。
 
そして、この誌面はこの問題の解決策をこう結んでいる。
「メーカーは小売店との関係を深め、お客さんが欲しがっている専門的な知識を武器にアマゾンに対抗すべきである。
そして、メーカーと楽器店は、ITと人間の力をテコで活用し、やはり多種多様な経験から体得した知識を提供して顧客をつなぎとめるべきだ。
そうすることこそがAmazonとの差を付け、お客さんを惹きつけるだけでなく、受難の時でも成長が期待できるというものだ」
 
ん~、ナンカ「無責任」を感じるナァ。
よく海外の連中は「ウェブサイトは物言わぬセールスマン」なんて言うけど、そうした専門的な情報をサイトに掲載してしまったら小売り店の出る幕は簡単になくなっちゃうもんね。
そして、ナントいっても一番大きな問題は、よしんばお店に行って知識を分けてもらって、モノを買う気になったところで、買う場所がAmazonだったらどうにもならない。
アメリカはMAPのおかげで、基本的には市中の小売店の販売価格とAmazonの値段は同じ、あるいは近似なのかも知れないけど。
こうした従来のやり方を大きく変えてしまうような商行為はもちろん大きな問題であるし、時にはチャンスなのかもしれないが、楽器業界に関しては、昔を振り返ってみるに楽器屋さんで勉強する文化みたいなものがなくなってしまうのが寂しいと思うナァ。
でも、みんながAmazonで買い物をしていたら町の楽器店が立ち行かなくなるのは当然だ。
 
エフェクターのようにどこで買ってもモノが同じ商品ならわかるけど、実際に弾いてみなければわからないギターなんかは通販で買わないだろう…なんて思うかもしれないけど、もうそんな時代でもないのではないか?
我々のように昔を知っている人間は、モノによっては通販でのショッピングを奇異に感じるかも知れないが、今生まれて来た子は、生まれた時からAmazonがあるんだから、自ずと考え方も我々と異なってくるのが当たり前だ。
生まれた時にJ-POPしかなかったら、死ぬまでJ-POPなんだから。
しかも、人間は性質のわるいことに「三つ子の魂百まで」で、幼い時に「いいな」と思ったものは死ぬまで魅力を感じ続けるらしいのだ。
小さい頃に食べた美味しいものはおじいさんになってもおいしいということ。
Deep PurpleもLed Zeppelinもない時代に生まれた人たちは、そうした音楽を死ぬまで知らなくてもヘッチャラなんだよ。
彼にはJ-POPがビートルズなの。
  
「売らんかな」でAmazonと手を組むメーカーがドンドン増えてきてごらん。
NAMMの会場はAmazonだけになっちゃうよ~。
実際、通販会社のブースがジャンジャン増えているんだから。

30_2