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2020年2月28日 (金)

イギリス紀行2019 その13 ~ スタンリー・キューブリック展 <vol.2>

 

『スタンリー・キューブリック展』、それではイザ!

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コレはキューブリックの没後20年を記念して開催された「キューブリック作品におけるデザインの重要性を探求する」初の展覧会ということだそうだ。
0r4a0241_2なるほど、月曜日の朝11時だというのに結構中は混み合っている。
私はこういう場合、一番ハジッコから順路に沿ってひとつひとつ見て行かないと気が済まないのね。
で、ハジッコに入り込むスキを狙っていたんだけど、どうも入り込めない。
それを見て取った係りのオバさんが「どこから見てもオモシロいから順番は関係なしにドンドン見ていらっしゃい」とアドバイスをしてくれた。
「スゴイお客さんの数ですもんね」と答えると、「そうなの、スゴイ人気でチケットは売り切れているの。ココはキューブリックのホームでしょ?コレほどのマッシブな展示はヨソの国ではできないのよ」とおっしゃる。
キューブリックはイギリスを生涯の安住の地としたけど、そもそもはニューヨーク生まれのアメリカ人なんだけどね。
イギリスの人はキューブリックが自国の人だと思っているようだ。
時としてAC/DCを「ブリティッシュ・ロック・バンドの雄」にカウントしちゃうのに似ているか?
ヤング兄弟は反対にグラスゴー生まれらしいけどね。
もっとも、『フルメタルジャケット』のベトナムの光景や『2001年宇宙の旅』、『シャイニング』もイギリスで撮っているからね。
キューブリック作品を「イギリス映画」と読んでもそう問題はないでしょう。
せっかくアドバイスを頂いたのでランダムに見ることにしたんだけど、後で写真を整理したり、この記事を書く都合もあるのでなるべく順路に従うことにした。
オッと!その前に写真を撮っていいかどうか確認しておかなきゃ…とさっきの係りのオバさんに尋ねると「もちろんよ!もうどこでもナンでも好きに撮って頂いて結構よ!」ってな感じ。
イギリスの名所旧跡や博物館はほとんど写真撮影OKだ。
ズット撮影禁止だったセント・ポール大聖堂も2年前に撮影OKになった。
中には1ポンドとか、気持ち程度に撮影代を請求する教会などもあるが、そういうのは「Donation(寄付)として」だから気持ちよく支払うことができる。
大英図書館の展示室はいまだにNGなのが残念。
ま、私の場合、撮る写真の99%はMarshall BlogかShige Blogの素材用というか資料なんだけどね。
ということで、この展示もタップリとシャッターを切らせて頂いた。

10展示はまず、キューブリックや創作の源を紹介する「THE STORY」というコーナー、それから「FILMING」という撮影技術やキューブリック作品の作られ方、そして後半は各作品ごとに実際に撮影で使用された小道具や秘蔵写真がタップリと並べられている…という構成。
見応え満点すぎる~!
まずは会場に入ってすぐところの「THE STORY」から。

20キューブリックは元々『LOOK』誌のカメラマンだったんだよね。
下のオジサンの写真はキューブリックが撮ったもの。
この展示に合わせてなんだろうけど、デザイン・ミュージアムの上の階ではその当時のキューブリックの簡単な写真展を開いていた。
それも見て来たので後の回で紹介します。30キューブリック愛用の品々。

40キューブリックはチェスが大好きだったという。
左の写真、チェス盤の上に「STRICT CONTINUITY DO NOT TOUCH(厳格に継続しているので触るべからず)」というメモが被せられている。
マジなのね?
オモシロいのは右の写真。
キューブリックのチェスの相手はジョージ C. スコット。
いいよね~、ジョージ C. スコット。『博士の異常な愛情』のコーナーでまた触れます。
『博士』の撮影中、ジョージ C. スコットは自分が扮するタージドソン将軍のキャラクターをめぐって度々キューブリックとやり合った。
そういう時はチェスで勝負をして決着させたという。
この写真、そんなシーンなのかな?

45愛用していたチェス盤と駒。
キューブリック曰く、チェスというのは、何かスゴイものに初めてお目にかかった時、「ウワ~!」と無闇に興奮する衝動を抑えるための訓練になるのだそうだ。
エキサイティングな撮影現場で、舞い上がってしまって重大なミスを犯したりすることがないようにするためにチェスは大変有益だとか…。
囲碁や将棋も同じかな?
確かに藤井七段が「ウワ~!」なんてなるところは想像できないもんな。
 
"I'm sorry, Frank.  I think you missed it(恐縮ですが、フランク。アナタの負けだと思います)"…『2001年』の中にフランク・プールとHALがチェスをするシーンが出て来る。
キューブリックのアイデアだったのかな?
この映画が公開されたのは1968年。
調べてみると、チェスで初めてコンピューターが人間に勝って見せたのはこの28年後のことだそうだ。
そのコンピュータはIBM製だった。
キューブリックは「I」、「B」、「M」の一文字前どころか、28年も前を行っていたのだ。
でも、いつかMarshall Blogに書いたように、この『HAL』の名前の由来は『IBM』とは関係ないんだよね。
コレについては、本連載の『2001年』のところでまた書きます。
50『2001年』で獲得したオスカー像。
第41回(授賞式は1969年)の特殊効果賞。
キューブリックは生涯13回アカデミー賞にノミネートされたが、受賞したのはコレだけだった。
ちなみに作品賞のノミネートは『博士の異常な愛情』と『時計じかけのオレンジ』と『バリー・リンドン』。
監督賞は『博士』、『2001年』、『オレンジ』、『バリー』の4作。
あ、私、いかにもアカデミー賞が好きなように見えるかもしれませんが、それは昔の話。
実際は、もう長いことアカデミー賞は「ハリウッド映画凋落の記録」としか見ていません。
今や興味は皆無。

50v「KUBRICK」のステンシルがリアル感を盛り上げるんだよね。

60vディレクターズ・チェアもホンモノ。

70

80愛用の便せん。
「STANLEY KUBRICK」のレターヘッドがカッコいい。

85v台本やらメモだらけの原作やら。
島崎藤村あたりだったらツラ~と見て終わりなんだけど、コレはそうもいかないでしょう。
全部シッカリ見て来た。
その中の一部。

左は1953年の日本未公開の作品『Fear and Desire(恐怖と欲望)』の台本。
右は『現金に身体を晴れ(The Killing)』の台本。
タイトルは『Sudden Death』となっていて、土台がアメリカの小説家、ライオネル・ホワイトの『Clean Brake』であるクレジットされている。

200_2『ロリータ(Lolita)』の台本。

210メモ・ホルダー。
備忘のためのメモなのだろうか?
井上ひさしが小説のネタやヒントをキープしておくのに最も的確な方法がこの「カード方式」であるということを思いつき、得た情報や知識を書き留めてストックしていた。
するとアッという間に膨大な数になってしまい、今度はお目当てのカードを探し出すことができなくなってしまい、あえなくカード方式が廃止になった…とかいう話を読んだことがある。
私も年を取って何でも忘れっぽくなっていて、Marshall Blogのネタや英語の知識、加えて愚にも付かないウンチクをストックするのに苦労しているのだが、井上さんほどの情報量ではないのでこのカード方式がよかろうと、100円ショップで1,000枚ほどの名刺大のカーとそれを保管するカード・ホルダー買い込んでみた。
結果…ダ~メ。
検索に苦労するどころか、カードに記入するのが面倒で面倒で、20枚にも満たないウチに頓挫してしまった。
結局、何か興味深い情報を発見しても、ただただ右から左へ受け流し続けている。

110『博士の異常な愛情』の台本。

180この『Red Alert』という小説が同作品の元ネタになったという。
こんなのがアレになっちゃうとはね~。

155『オレンジ』の台本。
手書きで「WIERD ELECTRONIC MUSIC」とか「NON-DANCING MUSIC」とか記してあるのが興味深い。190これは『バリー・リンドン』の原作本。
私は読んだことがないんだけど、映画が公開された時に文庫本がずいぶん出回ってたのを覚えている。
しかし、こういう人は仕事とはいえ、タダで本は読まないね~。
ギッタギタに下線を引いたり、平気でバンバン書き込みをしちゃう。
私はコレがものすごくイヤで、とにかく本はいつまでもキレイに保管しておきたい。
そこで、後にマーブロのネタに使えそうなことが書いてあるページに付箋を貼るようにしているんだけど、モノによってはアレよアレよという間に付箋で本が分厚くなっちゃう。
それに、時間が経ってからその付箋の貼られたページをチェックすると、一体どこが重要なのかがサッパリわからなくなっていることが多いんだよね。
やっぱり出来る人は本をたくさん読むだけではなくて、凡人とはゼンゼン違う本の読み方をしてるんだよね。

150『シャイニング』の台本。

160『シャイニング』の「REDRUM」のシーン。
映画ではナニかに憑りつかれたダニーが寝ているお母さんの傍らで「レッドラム、レッドラム…」とつぶやきながらドアに口紅で「REDRUM」と書く。
するとダニーの声に飛び起きたお母さんの目に飛び込んで来たのは、鏡に映ったダニーがドアに書いた文字…「MURDER(殺人)」。
コワイですね~、というシーンだけど、元々は全く違ったシチュエーションで「REDRUM」が出て来るハズだったことがわかる。

170『フル・メタル・ジャケット』のフエの先頭のシーンがイギリスで撮影されたと知ったと時は驚いた。

11_0r4a0277ハートマン曹長の哲学を表現する会話のメモ。
チャ~ンと厳密にキャラクターづくりをしているワケ。

130台本に細かく書き込まれたメモ。
徹底的にやらないと気に食わない人だから。

140コレは『アイズ・ワイド・シャット』の台本。
「Eyes Wide Shut」の意味は後の回の『アイズ・ワイド・シャット』のコーナーで。215実際には映画化されなかったアイデアのコーナーなんてのもあった。

90そのひとつがナポレオン・ボナパルトの話。
コレはその原作。
シッカリ読み込まれているようだ。
ナポレオンはジャック・ニコルソンが、ナポレオンの最初の妻ジョセフィーヌをオードリー・ヘップバーンが演じることになっていたらしい。
年齢の設定はそれでいいのかしらん?

100他にはホロコーストをテーマにした作品の話もあった。
アイザック・バシェヴィス・シンガーというポーランド生まれのアメリカ人が書いた『Aryan Paper』なる作品が原作。
このお方、イディッシュの作家として初めてノーベル文学賞を獲っている。
初めこの本を映画化しようと試み、シンガーに脚本の共同執筆を依頼したが断られ断念。
1990年に入りユダヤ人作家、ルイス・べグリーの『Wartime Lies』という小説を『Aryan Paper』のタイトルで映画化に取り組んだ。
キャストはジュリア・ロバーツかユマ・サーマンが当てられていたという。
結局、キューブリックは1995年になってこのプロジェクトを断念。
1993年に封切られた『シンドラーのリスト』の影響と、映画ではホロコーストを描き切ることはできないという失望感からだった。
下の本はその『Wartime Lies』。
やっぱりかなり読み込んでいたようだ。

120「FILMING」というコーナーではキューブリック作品の制作に関するアイデアや撮影機材が展示されていた。
ま、「混んでる」といってもこんな程度ですよ。
日本だったらギュウギュウ詰めで大変よ。
まずこうしてユックリ観ることは不可能だろう。220作品のオリジナルポスター。

230コレも興奮した。
各作品のカチンコ。
もちろんホンモノですよ。
カチンコは英語で「Clipperboard」とか「Slate」という…そうだ。

240展示品の古い順に…
 
『2001年宇宙の旅』

300『時計じかけのオレンジ』
赤字は「TO MOTHER+DAD WITH ALL MY LOVE STANLEY」とある。
クランク・アップ後にご両親にプレゼントでもしたのだろうか?

270『バリー・リンドン』
「CAMERAMAN」というところにクレジットされているジョン・オルコットはイギリスの映画監督で、1968年の『2001年からキューブリック作品の撮影監督となり、この『バリー・リンドン』でアカデミー撮影賞を獲得した。
バリー・リンドンの撮影については後の回の『バリー・リンドン』のコーナーにて。

290『シャイニング』

250『フルメタル・ジャケット』
ココで撮影監督が交代したね。

280そして『アイズ・ワイド・シャット』。

260ドンドンおもしろくなるよ。
<つづく>