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2013年5月16日 (木)

驚愕のアイリッシュ・ダンス!

2012年8月7日初出

「歌え!」と言われればよろこんで歌いましょう。「ギター弾け!」と言われれば久しぶりにがんばって弾きましょう。

でもね、「踊れ!」って言われたら断るね。年甲斐もなくイッキで勘弁してもらいますよ。…罰ゲームの話し。

ダンスだけは絶対にダメ!だって、自分が踊っているところを想像したら…吹き出しちゃうどころか、不快感を周囲に与えるとまで思うんだよね。

だからこそ、ダンスには強い憧憬の念がありましてね。見るのは大好きなのよ。ミュージカルのダンス・シーケンスは大好き。特にタップ・ダンスが好きで生でサミー・デイヴィスJr.を観たこともあるし、セイビオン・グローヴァーの『Brigin' da Noise, Bringin da Funk』もブロードウェイへ観に行った。

社交ダンスも好き。だからリヴァプールの近くのサウス・ポートというところに行った時、遠くに見えるブラックプールに感激したりもした。

ある日…アメリカの人の友人からメールをもらった。「友人」などというのはいささかおこがましいが、私を「friend」と呼んでくれるので、ここはひとつ甘えて「友人」にならせてもらう。

この友人はラリー・モートン(Larry Morton)といって、北米地区のビートルズとディズニーの音楽作品の出版権を持つ全米最大の音楽出版社ハル・レナード(Hal Leonard Corporation)の社長さんだ。などと言うとさぞかし、恰幅のよい好々爺を連想するかもしれないが、ラリーは若々しく、いつもニコニコとしている絵にかいたような超ナイスガイだ。

ジャズが好きという共通点もあり、光栄にも、そして図々しくもラリーとは長いお付き合いをさせていただいていて、会うたびに、彼からはお嬢ちゃんの話しを聞かせてもらっていた。

お嬢ちゃんはローレンちゃん(Lauren)といって、アイリッシュダンスをやっていて世界コンテストにも出場しているんだ!とよくうれしそうに話していた。

ここでマメ知識…外国の人はよくDiminutiveといってRichardをRickとかDick、WillianをBill、AlexanderをAlexのように呼び名を使うでしょ。これに興味があって、名刺をもらった初対面の人に「これはReal nameですか?それともDiminutiveですか?」なんて訊いたりすることもあるのね。

ややこしいのは「ジョン系」。JoeはJacob、Jon(Jon LordとかJon Anderson)はJonathan、でJohnはJohnときてる。しかもJackはJohnにもJacobにも用いられる。

これらは呼びやすく、口にしやすくすることを目的としているんだろうけど、大学の時の英会話の先生でMalory(マロリー)という人がいて、「子供のころ自分の名前がすごくイヤだった」と言っていたのが印象に残っている。その先生によれば「友達はみんなDickとかBenとか一音節なのに自分の名前は『Malo-ly(マロとリー)』と二音節で長くカッコ悪い」というのだ。

「フーム、外国の人もそんなんあるんだ?」と当時は思ったが、今こうしてたくさんの外国人とお付き合いしているとなるほどと思う。でもMal Waldronというピアニストがいるぐらいだから「Mal」にしちゃえばいいと思うけどそうはいかないの。なぜならMalはMalcomのDiminutiveって決まってるからなのね。おもしろいね~。

で、ここまでは豆知識のイントロ(エ、まだ?!…的な)。

Larry(ラリー)というのはLawrence(ローレンス)のDiminutiveなのね。で、私の友人がお嬢ちゃんにつけた名前はLauren(ローレン)。そうなんです、Laurenというのは男性名のLawrenceの女性版なのだ。ようするにLarryは愛娘に自分と同じ名前をつけたというワケ。向こうの人は平気でこういうのやるよね。じいさんの名前そのまま付けちゃうとか…。コレ日本ではまずないでしょう?

話しはもどって…前述の通り私は実際に踊るのはまっぴらゴメンだが、観る方は大好きなので、「いつかローレンちゃんのダンスを観てみたい!」と思っていた。

ラリーからのメールはローレンちゃんが所属する「トリニティ・アイリッシュ・ダンサー(Trinity Irish Dance、以下TID)」の日本公演のご招待だったのだ!

チャンス到来!もちろん大よろこびでご相伴にあずかることにし、公演日を待った。

そして、公演日当日…会場は渋谷のオーチャード・ホール。

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TIDは1979年にシカゴで創設。1987年にアイルランドで開催された世界アイリッシュ・ダンス・コンクールでアメリカのチームとして初めて優勝し、現在まで18回世界タイトルを獲得したアイリッシュ・ダンス・チームの世界最高峰なのだ。エキサイティングにしてチャーミングなショウは大人気を博し、世界各地の公演がソールドアウトとなってしまう。

そして、今回は4度目の来日で、札幌から福岡まで全13回の公演を実現させ、前回の来日時同様各地でソールドアウトとなったのだ。

観たかったんよ~、アイリッシュ・ダンス!

ロビーではアイリッシュ・ムードを盛り上げるバンド演奏が…。他にTIDのオリジナルグッズやアイリッシュ・グッズの即売所が設けられとてもにぎわっていた。
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そして、開演!

幻想的なオープニングからエキサイティングなパフォーマンスへ!

おわ~!カッコいいやら、可愛いやら!こりゃ一時も目が離せん!問答無用、想像以上の素晴らしさだぞ!

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可愛い衣装を身にまとい、驚異的な足さばきを見せる「ステップ・アバウト」という作品。愛らしい出で立ちとは対照的に、一糸乱れぬ完璧な動きで空を舞う長い足はあまりにも魅力的だ。そして、この笑顔!普通であれば、激しい運動による呼吸困難で断末魔の表情にもなろうかというところだが、ニコニコと表情ひとつ変えない様は実にカッコいい!

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男性陣のダンス・バトルもスリリングだった。写真中央がプリンシパルのタイラー・シュワルツ。全アイルランド選手権、北米選手権、全スコットランド選手権、イギリス選手権等々でタイトルを獲得した世界最高ランクのダンサーとして知られている人。「トリニティ史上最高のダンサー」と評されている。

バスラフ・ニジンスキーは一息で5mだか10mだか横へ飛んだとかいうが、おそらくタイラー君のようだったのだろう…と思わせるような軽快な動きは感動ものだ。足に羽がはえているのよ!

これぐらい踊れればダンスやってもいいな…ザケンなよ!ってな感じか?

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もちろん音楽もトリニティの重要な要素だ。演奏するはディファレント・ドラムス・オブ・アイルランド(Different Drums of Ireland)というカルテット。ギター&ボーカル、ドラムス、ハンド・ドラム、イリアン・パイプ&笛という楽器編成。時折打ち込み音源を交えながらケルト風味満点の完璧な演奏でダンサーをインスパイアする。アイルランドやアメリカの大統領に呼ばれて演奏したこともあったという。

こういう人たちの器楽演奏のテクニックってスゴイよね。我々の知っているところではシン・リジーの「ブラック・ローズ」のあの部分みたいのを平気で奏でてしまう。

ダンサーとの絡みも完璧で、おたがいにリスペクトし合い、この総合芸術を組み立てているのが観ていてよくわかる。

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ショウの間中ダンサーの後ろで演奏していたディファレント・ドラムス・オブ・アイルランドも最後は観客の歓声に応える。

約2時間、ラリーのおかげで最高に幸せな時間を過ごすことができた!

それにしても、このダンスだけは足の長い方が有利だな…。
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終演後に面会することができたローレンちゃん!もうニッコニコで大興奮!

「日本が好き!帰りたくない!」なんて言ってくれた。まだ、これほど暑くなかったからね、この時は…。

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モートン家はアイリッシュの血筋。ラリーの父方のおじいちゃんはアイリッシュ・フィドラーだった。さらに母方のおばあちゃんはアイリッシュ・ダンサーだったそうな。で、両親がローレンちゃんがまだほんの小さい時にTIDのショウに連れて行ったところ、力強く美しいダンサーたちは幼い彼女ちゃんをたちまちにウチに魅了してしまったそうだ。

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そして、ローレンちゃんはあこがれのTIDに入るために5歳の時からアイリッシュ・ダンスのレッスンに励んだ。

猛練習の結果、彼女は国内コンテスト(USA National Championship)のみならず、本場アイルランドで開催される世界大会(World Championships)でソロ、団体でともにメダルを獲得したのだ。
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そしてローレンちゃんは13歳の時にTIDのジュニア・チーム(Junior Touring Company)に入り、全国ネットのテレビショウ、全米各地やフランス、スペイン等などでパフォーマンスを披露、そして、とうとう念願のTIDのメンバーになったのであった!やったね、ローレンちゃん!

入ったはいいけど、さすがに世界一のチーム、その練習は生半可なものではないらしい。トップ・ダンサーたちは普段は週に10時間程度のトレーニングをしているが、こうしたツアーの前になると毎日10~12時間の練習をこなさなければならない。そうだろうなぁ~、いくら才能あふれる優秀なダンサーたちでも、あれだけのパフォーマンスを実現するには相当な練習量が必要なハズだ。
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そしてこの日、日本の観衆に目もくらむような素晴らしいダンスを披露してくれたのであった!

ホントに素晴らしいかった!また観たい!すぐ観たい!

Larry-san, Lauren-chan, domo arigatou!!

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最近、中学校かなんかのカリキュラムで「ダンス」という単元があるらしいが、アレ何をやってるんだろう?アイリッシュ・ダンスをやれ!なんていう気は毛頭ないけど、人形振りだらけの妙なあの踊りはやめてもらいたいナ~。ああいうのはパッと見はカッコいいかもしれないけど、美しくない。

門外漢なので多くは語れないが、ダンスも音楽や映画と同じ状況にあるようですな。フレッド・アステアやジーン・ケリー、シド・チャリシやジンジャー・ロジャースのダンスの方がはるかにカッコいいと思うんですけどね。少なくとも彼らのダンスは優雅で美しい。人形振りも結構だが、こうした素晴らしいものを勉強したうえで取り組んでもらいたいと願っている。ロボットはコロッケだけでもう結構。またオヤジのボヤキになっちゃった!

(敬称一部略 2012年7月16日撮影 ※ライブ写真提供協力:株式会社テンポプリモ