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2013年7月23日 (火)

『カイズ』~クルベラブリンカのセカンド・アルバム

2013年3月15日 初出

久しぶりにレコード会社に勤める仲良しと昼食を摂った。彼は仕事がら新しい音楽メディアに精通しており、いつもいろいろと教えてくれるそっち方面の私の師匠だ。

そして、いつも話題になるのは「CDの終末」に関すること…。私はご覧の通り音楽が大好きで、「人生一度はレコード会社で仕事がしてみたかった」、あるいは「してみたい」…と思っている。ところが、その友達の前でそんなことを口にしようものなら、「絶対やめた方がいい!」と彼はまるで自殺を押しとどめるような勢いでいつも私を諭すのである。

「CDは本当になくなってしまいますよ…」

これが理由だ。もちろんこんなことは今までもあちこちで耳にしてきていることだし、アメリカに行けば本当にCD屋がないことも知っているし、ロンドンもHMVをはじめ、ジャンジャンCD屋が消滅していることも目の当たりにしている。

それでも、「まさか…元祖はエジソンだぜ…」という気持ちが先行してあまり実感がわかないのは、あまりにも自分の人生の深い部分にレコードやらCDが当たり前に入り込んでいるからかもしれない。それとCDというフィジカル・プロダクツの最後の砦がなくなってしまう悲劇を信じたくないという気持ちもあろう。

彼の話しの中でショックを受けたのは、今年中には日本に入ってくるとかいう新手の配信サービス。その配信サービスは4大レーベルと契約していて、月額いくらか払えば、1500万曲の中から好きなだけデジタル・オーディオ・プレイヤーやスマートホンにダウンロードできるという。

コイツのおかげでiTunesも近い将来駆逐されてしまうんだと。そりゃCDもなくなるわ。

ま、好きなようにやってくれればいいけど、音楽ってここまで「どうでもいいモノ」になり下がってしまったんだな~。音楽にはお金は使う必要はありませんよ~!と言っているようなものだ。

今、今年1月に上梓された『誰がJ-POPを救えるか?』って本を読んでいる。もちろん(?)私みたいな音楽変態にJ-POPは死んでも無用のものだが、同書の中では私がマーブロに書いているようなことにも触れていて、加えて世の中の音楽マーケットのしくみが見えてきてなかなかおもしろい。

やっぱ大変そうだからレコード会社はやめておこう。好きなCDを買い続ける一方、外野で音楽業界に対して文句を言っている方がはるかに楽しそうだ…。読後、思うところがあればまたここで論じてみたいと考えている。

私なりの結論としては、フィジカルな商品を買いたくなるような音楽がないからCDが売れない…コレに尽きると思っているし、その本がそう結論付けてくれることを期待している。

さて、前置きが長くなったが、ここからはお金を出して買いたくなるCDの話し…。

クルベラブリンカのセカンド・アルバム『Kaizu』がそれだ。

Kaizu
リフやらソロやら、正統派ロック的な魅力がふんだんに詰め込まれている。特にこのバンドは前作(ライブを除いて)『KRUBERABLINKA』の「太陽」のような鋭利で奇抜なギターリフが素晴らしい。

少し前にマーブロでメロディに対する持論を吐いたが、もっというとギター・リフというのはロックにおいて、ましてやハード・ロックにおいては第一印象もいいところで、ギター・リフさえカッコよければ1曲カッコよく仕上がっちゃうといっても過言ではないでしょ。みんなディープ・パープルもUFOも好きでしょ?それがここにある。

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ロックはギターと野太いボーカルでしょ。いつそれ聴くの?今でしょ?

『Kaizu』があるんだから!とにかくこのアルバムにはそうしたロックの魅力が満載しているのだ。一聴して自分たちが目指すべき音楽を心から愛し、丁寧に自分たちの音楽を作っていることがわかる。気持ちいいですよ、こういう作品は。

で、加えて歌詞がまた実にスリリングなのだ。

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あのね、ちょっと前にある音楽評論家がボブ・ディランの歌詞のことを書いていたんですよ。その方は、しばらく海外にいて少々歌詞の英語がストレートに頭に入ってくるようになったんだって。

そして、ボブ・ディランを聴いて驚いたというのだ。「連中(英語圏の人たち)はこれを聴いてストレートに歌詞を理解していたのか!」とショックを受けた。

コレ、めちゃくちゃわかるんですよ。いつも書いているようにビートルズの魅力のひとつはメロディと同時に味わう歌詞にあると思うし、エルトン・ジョンもしかり。おそらくキング・クリムゾンやピンク・フロイドの音楽を歌詞カードや辞書なしに耳と頭で味わえたら、その世界はケタ違いに奥が深くなると思うよね。ザッパなんかなおさらだ。

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こういうのはいくら後で歌詞を調べて意味を取っても魅力が半減してしまう。メロディと同時に歌詞の意味が理解できてそれを口ずさめないと味わったことにならないんですよ。

じゃ、お前はどうなんだ?って?ダメダメ、ようやくビートルズがようやくストレートにキャッチできるようになってきた程度。でもね、私はそうしてビートルズを人生で2回楽しんでいるんですよ。

それにクルベラブリンカがあるからね。「いったいこの歌詞はどういう展開になるのか?」…ハード・ロックでこんなことを期待させるバンドはまずないでしょう。
これはレトリックの問題もさることながら、あの言葉がCazさんの声で、そしてあの歌い回しで並べられるから耳に入ってくるんだろうけど。

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昔からハード・ロックは、演奏のカッコよさと歌詞のバカバカしさのギャップがいつも問題になっていたと思うんね。英語で歌っちゃ意味ないし、卑怯な感じがするし(箱根駅伝にエチオピア人を出すみたいナ…)、歌詞を重視すれば歌謡曲になっちゃうし…いつもこのジレンマにミュージシャンたちは悩まされ続けてきたのではなかろうか?そうした問題を忘れさせてくれる曲と歌詞のバランスがクルベラブリンカの曲にある。

だいたい1曲目の「宇宙は滾れ」って、「は」はスゴイ。ここ普通の感覚では「は」は持ってこない。「は」に「れ」ですからね。これ英語だと「Universe must boil」かな?ホラ、つまらなくなっちゃった!イヤ、英語にはならないでしょうな。こういう感覚がおもしろい。

ふざけているように思われるかもしれないが、今は忙しくてそう時間はかけられないが、文章を書いていて助詞ひとつに悩むことって結構ある。「が」にするか「は」にするか…みたいな。でもそんな悩みは読者には一切通じないのが普通だ。しかし、こうして歌の一部に組み込まれたが最後、たった一文字が曲の雰囲気を変えてしまわないとも限らない。だから音楽はおもしろい。

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どの曲も出来がよく、1曲ずつ紹介しているとキリがないので、その作業は割愛するがひとつだけ…。

最後の「野ばら達へ」 。バラード。これおもしろい。ちょっとコード進行をコピーしてみたんだけど、なんというか、どうもシックリこない。「アレ?こっち行っちゃうの?」みたいな…。久しぶりにこんな作業したからかな?

コード譜を全部載せたいところだけど、怒られちゃうかもしれないからダイジェストで…。

曲中に出てくるイントロのBm/Db7|D/D#dimのこのディミニッシュがタマらん。いつかCazさんがメタルはディミニッシュよ!みたいなことをおっしゃっていたが、それとは意味が違う「パッシング・ディミニッシュ」という手法。ただ滑らかに次のコードに進むために使うだけなんだけど、こうした曲にでてくるとギクっとする。

この曲のメインのキーはBmなんだけど、部分的にサブドミナントがダイアトニック・コードのEmではなくEになるもんだから曲がメジャーに聴こえてしまったりする。

また、これは特殊でもなんでもないんだけど、ドミナントのGb7を強調することでドラマチック度をアップさせている。

そしてさらにギターソロで転調。これがまた実に自然に聴こえる。よくできていますな~。カッコいいわ~。

クレジット見てみると作詞も作曲もCazさん。訊いてみると、ピアノで作った曲だとか…。やっぱ違うんだよね、ギタリストが作る曲と…。

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CDに使われている写真は昨年10月に東京キネマ倶楽部で私が撮影したもの。かくも素敵にレイアウトしてくだすったことにこの場をお借りして心から感謝申し上げます。

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…とそんな順風満帆のクルベラブリンカなのだが、悲しい知らせが届いた。音楽性の相違を理由にキーボードの岡田英之が脱退した。

ジャケットのスリーブの表4に使われている写真を撮る時、岡田さんにモデルになってもらいずいぶん手伝ってもらった。

誠に残念なことだが、双方のますますの活躍を祈念すりばかりである。

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そして、クルベラブリンカは新しいキーボード・プレイヤー、片岡祥典を迎えて活動している。

その布陣で3月20日、クルベラブリンカが目黒の鹿鳴館に登場する。普段は関西を中心に活動しているバンドなので東京圏のメタル、ハードロック・ファンの皆さんはお見逃しなきよう!

クルベラブリンカの詳しい情報はコチラ⇒KRUBERABLINKA facebook

こういう良質なCDがリリースされる限り、日本人の良識をもってすればこの国からCDが消え失せるということはないであろう…と信じたい。
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