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2019年8月16日 (金)

イギリス紀行2019 その7 ~ ヴィクトリアとアルバート <後編>

 
私が大英博物館よりV&Aを好きな理由は前回書いた通り、想像を絶する幅広い展示品の種類によるところが大きい。
加えて、とりわけお気に入りの展示カテゴリーがあって、そこをチェックするのが最高に楽しいのだ。
今回は家内のリクエストで久しぶりに来たのだが、当然そのお目当てのコーナーもチェックするワケで、展示品が数年前とガラリと変わっていてうれしかった。
そのコーナーは「Stage and Performance」といって、かつてはLed Zeppelinの1975年のアールズ・コートの告知ポスターやピート・タウンゼンドが壊したレスポールの実物を展示していたりした。
今回はそれらの展示品は見当たらなかったが、ロック関係の新しいアイテムと映画がらみの興味深い展示品が散見された。
また、エルトン・ジョンが寄付してできたという写真関連の展示室ができていたので、双方併せてMarshall Blogの【イギリス-ロック名所めぐり】で取り上げたいと思う。
 
さてV&A、ココは展示品だけ見て楽しんでいてはモッタイない。
建物や内装の美しさも十分に鑑賞に値するのだ。
コレは中庭のようす。

10_2赤レンガと壁面に多数取り付けられたベージュ色のレリーフのコントラストが美しい。

20_3屋根の向こうで頭を出しているのは正面玄関があるメインの建物。
アッチから入って来た。

30館内のレストラン。
70イギリスで博物館のような設備に行くと、どんなところでも大抵レストラン、あるいはカフェが入っている。
コレはV&Aが世界で最も早くに実施したアイデアなのだそうだ。
私が初めて来た時、このレストラン&カフェ・コーナーは工事中で、中を覗くとボロンボロンの内装が確認できた。
それがこんなにキレイになっちゃって~!

50v_2家内がV&Aを訪れたがった理由のひとつはこのレストラン&カフェだった。
ま、レストランといっても丸亀製麺みたいなヤツで、メインディッシュやらサンドイッチ、スープやらデザート等々、好きなモノを自分のトレイに乗せて列に並んで最後に支払うシステム。
こういうところにしては値段もそう高くはないのでだが、何しろスゴイ混雑ぶり!

60この写真だけ見てるとそうでもないようだけど、このレストランに入れない人がゴマンと廊下のテーブルで食事をしている。
もうその席を取るだけでも至難のワザなのよ。

40_2…と、すぐ隣の部屋に目をやると…なんだスキスキじゃん?
でも、入り口には係りの人ガ立っているし、「おかしいな」と思ってその係りの人に訊いてみると、この部屋は席料を取るんだってサ。
バカバカしいからヤメた。
家内が事前にサウス・ケンジントンにおいしいエール・パイの店があるということを調べておいてくれたので、博物館をひと通り見たらそっちに行くことにした。

7_img_8112レストランだけでなく、館内の内装はどこもかしこもホレボレするような美しさだ。

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120vコレは部屋自体が展示品だからスゴくて当然。

100こういう立派な設備は天井をよく見ないと損をする。
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150_2ココは舞台や映画の喜劇のコーナー。
天井が金管楽器の模様になっている。

156上だけでなく、床面のタイルを見て歩くのも楽しい。

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170vまぁ、とにかくどこも立派で美しく、見ていて全く飽きることがないのよ。

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130渡り廊下でコレだからね。

190_2表の看板にあったジュエリー類の展示。

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240_2ココはやっぱり人気があったね。

250_2さて、最後に…我々、日本に関する展示はどうなっているか…。
当然仏教関係のアイテムが来るわね。

260_2コレを見た瞬間に頭に浮かんだのは…

270渡辺明永世竜王&棋聖。

280v_2ココも結構展示が変わったね。
でも相変わらず武具甲冑は人気らしい。

290v刀も人気の的。

300_2鍔だけでこうだからね。
よくこういうのをかき集めて持って行ったイギリス人がいたよな~。
大変にお目が高いと思う。

310_2こういうアイテムはキチンと交易をしてイギリスに渡って来たモノらしいが、マァ、昔の日本人は相当ダマされてるだろうけどね。
今の対アメリカと同じだよ。

320それと印籠!

330ココは印籠のコレクションがスゴイな。
ものすごく精巧にできているので欲しくなっちゃうんだろうね。

340_3髪飾りのコレクション
櫛、笄(こうがい:まんなかの横になっている棒)、簪。
鼈甲に漆に蒔絵細工…日本のモノは重厚で、品があって、本当に素晴らしい!

350_3それとこの根付。
昔、着物にはポケットが付いていなかったため、煙草入れや印籠にヒモをつけて、そのヒモを帯に挟んだ。
それだけだとすぐに落ちてしまうので反対側にこの根付をくっつけて帯から落ちないようにした。

360_2コレなんかスゴイでしょ。象牙。
こんなものにまで「美」を追求してしまう日本人がうれしい。
根付は洋装化が進むにつれて不要となり、ジャンジャン海外へ持ち出されてしまった。
海外では今でもコレクターが多く、海外向けに作っているという話を聞いたこともある。

370v蒔絵。
このテクニックも日本独特のモノ。
映画『赤ひげ』で藤原鎌足が演ずる六助という憐れな死に方をする老人が「かつては腕のいい蒔絵師」だった。
で、蒔絵細工を見ると、必ずこの時の臨終を演じた鎌足の顔を思い出しちゃうんだよね。

380_2こっちは葵の御紋だ。
丸を小さい丸8つで囲んでいるのは「九曜(くよう)」と言って多くの武家の家紋に使用されているようだ。

390ま、「三つ葉葵」と言っても「徳川」とは限らない。
例えば、下の左は徳川。右は会津だったりするんだよね。葉脈のデザインがゼンゼン違う。
でも写真のは徳川かな?


Tokusen_1

Aidu2 能面も欠かせない。

400さて、オモシロかったのはコレ。
広重『東海道五十三次』の「保土ヶ谷新町橋」。
この絵に描かれている川は今でもある帷子川(かたびらがわ)。
橋は帷子橋というらしい。
構図としては、現在の相鉄線天王町駅付近から西久保町の山並に向かって、右手は現在の保土ヶ谷駅方面。左手は現在の西横浜方面と分析できるらしい。
今ならすぐ目の前が「こころ」というトンカツ屋か?
あ、確かにこのトンカツ屋の前の通りは旧東海道だわ!
ココ、家内の実家のすぐそばなの!
地球の裏側まで来て近所を描いた浮世絵を発見するなんてうれしいじゃない?410_2何度も書くけど、生麦事件のあった1862年9月14日、薩摩藩島津久光の一行は保土ヶ谷宿で投宿した。
保土ヶ谷宿の本陣は家内の本家。
「本陣」というのは、各宿場に設けられた大名や旗本等、エライ人たち専用のホテルのことね。
そして、当時の薩摩藩主は島津茂久。
4年前に死んだ私の父の名前は「茂久」。
薩摩藩士に斬殺されたイギリス人が行動を共にしていた横浜在住の生糸商人の名前をウィリアム・マーシャルといった。
吉村昭の『生麦事件』を読んでこの奇妙な符合を知った時は結構トリハダが立ったけどね。

Nj_3 元神奈川県知事の松沢成大の『生麦事件の暗号』という本を読むと、事件発生の日、薩摩藩一行は予定を変更して横浜宿を過ぎ、ひとつ先の宿場である保土ヶ谷宿まで行ったらしい。
偶然度アップ!
ただし、島津久光は安全を担保するために本陣に泊まらなかったらしい。
一番偉い人は本陣に泊まることがわかっているからね。

Na そんなだから、当然生麦事件の発生現場にも行って来た。
コレを設置したのは「生麦事件参考館」という民間の資料館で、見学したかったんだけどいつ開館しているかがわからない。
家内が電話で確認してくれたんだけど、応対してくださったお婆ちゃんが最早「エ、アンだって?そうだよ、アタシが神様だよ」状態でほぼコミュニケーション不可。
またいつか行ってみたいと思っている。

7_img_0355こんなとところで事件は起きたんだよ。

7_img_0345しかし、77万石の大藩、薩摩藩の大名行列たるや立派だったろうね。
1,800人がココを練り歩いたワケだから。
鹿児島までの1,700kmの行き来は片道2ヶ月かかったらしい。
でも、ずっとテクテク歩いていたワケではなくて、大阪から向こうは船を多用したらしい。
ま、それでも1,800人もの大パーティが大阪まで東海道か中山道で行ったんだからね。

7_img_0349 「中山道」といえば、この本オモシロいよ。
定年を迎えた夫婦が東京から京都まで中山道を踏破した記録。
お父さんが美術の先生なのかな?すごく写真がウマくて、差し挟まれる絵がとてもよろしい。
ウチは私が今回ヒザをやってしまったので長距離を歩くことはムズかしいので、いつか「ローマ人が歩いた道をたどるイギリスめぐり」を車でやってみるか?

Ff_2 生麦からサウス・ケンジントンに戻って…。
私はコレ。
渓斎英泉(けいさいえいせん)という江戸時代後期に活躍した浮世絵師の作品。
コレがV&Aに飾ってあった。
豪奢な髪飾りと前締めの帯、ひと目で禿(かむろ)を連れた花魁だとわかる。
角町の大黒屋の雛扇という花魁のようだ。
春なんだろうネェ。
仲之町通りに移植された桜が咲き誇っているところか。

420vコレが今でもある角町の大黒屋。
かつては女郎屋だったのか?
今はタバコ屋になっているが、以前は花魁が履く高下駄を作っていた。
看板を見ると現在も「履物屋」ということにはなっているようだ。
実際に店の中を覗くと、ガラス戸の棚に三枚歯の高下駄が飾ってある。
上の保土ヶ谷同様、こうして思いもよらないところで自分がよく知っている事物に出会うのはとても不思議な感じがするね。

430_2それとコレ!
高校の時、コレが出て来た日にゃ驚いたネ~。
コレぐらいで止めておけばヨカッタのにネ~。
440やっぱり日本コーナーはグ~!

450こうしてV&A見学を終了。
朝のウチは天気も悪かったのでユックリ見ようと…どうでしょう…カレコレ5、6時間はいたかな?
ところが、まだまだナニも見ていないに等しい。
もっとジックリ見れたらいいんだけどね、時間がいくらあっても足りない。
でも、同じ時間を使うなら私は大英博物館よりV&Aの方がオモシロいと思う。
後日、「V&A <エンターテインメント編>」をMarshall Blogでやりますのでお楽しみに!

460お腹も空いたので、例のエール・パイのお店へ行くことにしたのだが、ま、折角ココまで来たので少しだけハロッズを覗いてみることにした。
工事中でこんなことになっていた。
今回、ホントにどこもかしこも工事だらけだったよ。
まさかオリンピックでもやるのか?

470ハロッズってデイバッグを背負うのが禁止されていて、手で持たなきゃならないのが厄介なのよ。
それに見たところで欲しいモノがあるわけでなし…。
人出もスゴい。

480お土産でも探してみるか…ということでに地下のハロッズ・グッズ・コーナーだけ見てみた。

490地下一階は全部ハロッズ・グッズ。
調子に乗ってやがんな~。
でも日本で買うより全然安いらしい。
はい、チャッチャとハロッズ終了。
ナニも買わず。

500お盆のチョット前にNATALの配達をしに新宿まで行ったんだけど、道路は信じられない位の大混雑だった。
毎日車に乗っているワケではないんだけど、あんなに混んでいたのは珍しい。
東京の渋滞は昔に比べると格段に改善されたもんね。
ところがロンドンはさにあらず。
下の標識を見て。
 
まず向かって右の「Congestion Charging ZONE」というのは「渋滞税(Congestion Charge)が課されるゾーンでっせ」ということ。
つまり、渋滞と大気汚染を緩和するために、平日の朝7時から夕方6時までにロンドンの中心部に乗り入れる車両には1日11.50ポンド(今なら1,600円ぐらい)の「渋滞税」が課されちゃう。
現在のところCO2の排気量が少ない車両やハイブリッド・カー、電気自動車は渋滞税を免除されているが、2025年12月からは問答無用ですべての自動車が渋滞税を払うことになるんだって。
「エエ~!そんなの支払っているかどうかなんて、どうやって監視するの?」と思うでしょ?
コレね、ロンドンに入って来る必要のある車両は、事前にしかるべき機関に税金を支払って車のナンバーを登録してもらう。
で、登録されていないナンバーの車両はこのゾーン内に設置されている監視カメラでチェックされちゃう。ま、あの黄色いナンバー・プレートに何がしかの仕組みが施されているのかもしれない。
そして、チェックされた車のドライバーは当日の24時までに渋滞税を納めないと追徴金2ポンドが加算される。
さらに翌日の24時までにまた支払わないと最大187ポンド(今なら25,000円ぐらい)の罰金が請求される。コレはかなり厳しい。
 

一方、左側の「Ultra Low Emission ZONE」は「超低排出ゾーン規制(ULEZ)」といって、2007年以前に作られたバイク、2006年以前に作られた一般ガソリン車、2015年以前に作られたディーゼル車がこのゾーンに入る場合、1日12.50ポンド(今なら1,700円チョット)、バスやタンクローリーなどの大型車両には1日100ポンド(今なら13,800円ぐらい)が課税されちゃう。
すごいね~、もはやジョージ・ハリスンの「Taxman」より厳しいじゃん?
 
ここはハロッズのすぐ近く、すなわちロンドンの中心部なんだけど、こうして2つのゾーンが重なっているところに、当該する古い車両が昼間にこのエリアを通行するとなると、どうなるか?
片方だけ払えばいいのではなく、両方の料金を払わなくてはならない。
ウィークデイの日中、ただこのエリアに乗り入れるだけで4,000円も覚悟しなければならないのだ。

510さて、目的のおいしいエール・パイを出すパブに向かったんだけどどうも場所がわからない。
フルハム・ロードをほっつき歩いていたらこんなカッコいいビルを発見!
年配の人には「フルハム・ロード」なんてなつかしいでしょ?あの事件、一時は朝から晩までやってたもんね。

520まるでウーリッツァーのようなアールデコ調のこの建物は看板にあるように「Michellin House」と呼ばれるミシュランのイギリス本社。
1911年のオープンだそう。
ホントは中を覗きたかったんだけど、まずはエール・パイということでパス。

7_img_9447 ようやく発見!
「Bumpkin」というお店。
時間は4時ほんのチョットすぎ…さっそく中に入ると客がひとりもおらず、イヤな予感。
ようすを訪ねると、5分前に食事は終わって、夜にならないと再会しないという。
飲み物はOK。
結構暑かったし、ヒザも休めたかったので、休憩がてらビターのイッパイも飲んで行こうかと思ったのだが、カウンターを見るとハンド・パンプがなかったので止めておいた。

530v「I only love my bed and my momma I'm sorry」って、すごく目に付いたので勝手に写真を撮らせてもらっちゃったんだけど、コレはナニ?
調べてみるとDrakeというヒップホップの人の「God's Plan」という曲の一節だった。
だから私には関係なかったわ。

540vお腹すいちゃってサ~。
おいしいパスタでも食べたかったんだけど、あたりにはチェーン店の「Balla Italia」しかないし、ピザはヤダし、と、通りかかったのがこのフランス菓子店。
メレンゲとパンのお店。
なんか猛烈においしそうだったので入ってみた。
550お店に入って「ハァイ」と挨拶したんだけど、若い男の店員が「ボンジュール」と言ってくるので私も「ボンジュール」と言い返してみた。
するとその若い店員はニコリともせず、エライ恥ずかしかったわ。
ホラこれが例のやつ。
持って帰れば1.80ポンド、ココで食べていくと2.20ポンド。55円ぐらいの差が出るので決してバカにはできない。
軽減税率って日本で騒いでいるでしょ?
あれ、チャンチャラおかしくて…。
イギリスはVATという消費税が20%で一般的な買い物をするに当たっては決して低い税率ではない。
でも、少なくとも日本よりは福祉システムがシッカリしている。
それに全部が全部20%課税させるわけじゃないからね。
庶民の生活に必要であればあるほど、率が低く設定されている。
ココですよ。
例えば高齢者の水道光熱費は5%だったりするし、国民の知性を向上させる書籍なんかは税金がかからない。
その最たるものは食料品。
食料品は無税だ。
だから日本で「軽減税率8%を導入します」なんてのはチャンチャラおかしいワケ。
日本の民衆はもっともっと世界や社会のことを勉強すべき。
何も知らないし、知らされていない。

560メレンゲを家内と1つずつ買ってみた。
お腹が空いていたのと、疲れていたせいか、筆舌しがたいおいしさだった。
これならまだ5個は楽勝でイケるわ。

570ついてにぶどうパンも買ってみた。
コレもヤケクソにおいしかった。
パンのおいしさもさることながら、レーズンの分量が絶妙なんだな。
袋もかわいい。

580v駅前のランボルギーニ、イヤ、イギリス式に言えばランボッギーニの代理店。
やっぱりお金持ちが多いんだな、この辺は。

590はい、サウス・ケンジントンの駅に戻って来ました。
博物館とは反対側だ。

610地下鉄の注意書き。
「暑い時には水を持って歩いてください」って。
ロンドンの地下鉄はホームも電車もやたらと暑いからね。
「具合の悪い人が電車を降りるのを手伝ってあげてください。後は我々がホームで適切なケアをします」
オモシロいと思ったのは下のヤツ。
「もし具合が悪くなってしまったら、頼んでイスを譲ってもらってください」
コレ、日本だったら間違いなく「もし具合の悪い乗客を見つけたら席を譲ってあげてください」でしょう?
やっぱりまずは「自分」が先に来る…ということか?

620v (2019年6月7日 サウス・ケンジントンにて撮影)