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2020年3月 9日 (月)

イギリス紀行2019 その17 ~ スタンリー・キューブリック展 <vol.6>

 
今日は、精魂尽き果ててしまい前回のエピソードに組み入れることができなかった『アイズ・ワイド・シャット』。
キューブリックの遺作だけど、展示の順番がこうなっているので仕方ない。
「Eyes wide shut」…「目を大きく閉じろ」っておかしいでしょ?
「Eyes wide open」でなければおかしい。
反対は「Eyes shut tight」で「目をきつく閉じろ」。
ココでオモシロいのは開く時と閉じる時では語順が変わるということ。
開くのが「Eyes wide open」なら閉じる時も「Eyes tight shut」になるハズなんだけどそうはならない。
理由は知らないけど「イチニィサンシィゴーロクシチハチキュウジュウ」と「ジュウキュウハチナナロクゴーヨンサンニーイチ」みたいなものか?
そこで「Eyes wide shut」…。
言葉の並びとしては、前半は目を開けて、後半は閉じる。
どっちなのよッ⁈
一種の撞着かと思ったらさにあらず。
すなわち、「よ~く見て、イヤ、見ない方がいいよ」という意味になるらしい。
では『アイズ・ワイド・シャット』の展示をEyes wide openして見てみましょう!10この作品もやっぱり音楽が魅力的だよね。
まずはタイトル・シークエンスのショスタコーヴィチ。
いいんだよな~、「ジャズ組曲第二番」の「ワルツ」…なんて、あたかも昔から知っているかのように書いているけど、この映画で知った。
この曲は元々「Suit for Jazz Orchestra(ジャズ・オーケストラのための組曲)」といって、レニングラード市が、「ジャズ音楽の地位向上」を目的に企画したコンクールのためにショスタコーヴィチが作った曲。
「第一番」の初演が1934年、この「ワルツ」が含まれている「第二番」が1938年とされているんだけど、コレが実にややこしい。
この「第二番」は戦争の混乱で譜面がどこかへ行ってしまったものだから、全く関係ない「Suit for Variety Orchestra(ステージ・オーケストラのための組曲)」という曲が「ジャズ組曲第二番」になってしまった。
勝手に仕立て上げてしまったということか。
ところが、近年になってその「第ニ番」のピアノ譜が出て来ちゃった。
そこでイギリスのマクバニーという人がオーケストレーションを施した。
コレがナント2000年の話。
最近の話ヨ…なんて、あたかも昔から知っているかのように書いているけど、下のショスタコーヴィチの本で知った。
ブックオフで見つけたんだけど、あんまり安くなってなくてサ…清水の舞台から飛び降りるつもりで税込みで1,560円も出して買った。
CDは1,000円以上絶対に出さないけど、本の財布は比較的ヒモがゆるい。
「庸介」さん…三宅さんと同じ字だ。
11_2dsbだから1999年に公開された『アイズ・ワイド・シャット』のサウンドトラック盤(下の写真)のクレジットはまだ「Jazz Suit No.2」になっている。
しかし!言っておきますけど、「第一番」もかつての「第二番」も全編通して全くジャズじゃネェ。
ジャズ感のカケラもないんだけど、飛びっきりの佳曲が揃ってる。
もうチョット書くと、「第一番」ね、1曲目が「ワルツ」でこの『アイズ』のワルツの習作みたいな感じで(こっちが先なんだけど)、1934年のクルト・ワイルのミュージカル『Johnny Johnson』の「序曲」にソックリなんだよね。
メロディが似ているとかいうワケではないのにものすごく雰囲気が似ていてオモシロイ。
ワイルはショスタコーヴィチを聴いていたんじゃないかしら?
それと2曲目の「ポルカ」。
「キューピー3分クッキング」のテーマ曲あるでしょう?
アレはイェッセルというドイツの作曲家の「おもちゃの兵隊のマーチ」というのが元ネタなんだけど、ショスタコーヴィチはこの「ポルカ」で「おもちゃの兵隊のマーチ」をパクってるな。
あるいはパロディなのかな?
とにかくショスタコーヴィチはいいわ~。
交響曲、協奏曲、管弦楽曲、室内楽曲…もう聴く曲、聴く曲、知らないメロディが満載で、どれも今の私には新鮮に聞こえて楽しいのだ。
中学の時に夢中になってロックを聴き漁っていた時の感覚を思い出す。
私が言うぐらいなんだからロック・ファンにもイケます。
でも聴かないで!独り占めにしておきたいから!
 
『アイズ・ワイド・シャット』に戻って…冒頭のダンス・パーティのシーンで使われる曲の数々ね。
コレがまたいい。
「When I Fall in Love」、「I'm in the Mood for Love」、「Chanson D'Amour」、「I Only Have Eyes for You」等々…こういうのを見つけるのは楽しいナァ。
サントラ盤には「When I Fall in Love」しか収録されていないけど。11_2ewsしかし、この映画もコワかったね。
ニコール・キッドマンがステキだったナァ。それと当時の旦那様だったトム・クルーズの小柄っぷりがエラくフィーチュアされていたように感じた。
アレ、冒頭のダンパのシーンなんか、少しセッシューしてやればヨカッタのに…と思うけど。
あのチャイチーさはキューブリックにナンカの意図があったとしか思えん。
 
どうでもいいことなんだけど、映画の最初の方でクリスマス・プレゼントを用意するシーンがあって、ニコール・キッドマンが下のゴッホの本をギフト・ラッピングするんだよね。
オッ!と思ったのは、私もあの本を持ってるの。
「ゴッホ好きの家内へのお土産に」と、メトロポリタンかMOMAのミュージアム・ショップで買ったんだよね。
帰りにスッカリ荷物が重量オーバーになってしまって、ニューアーク空港でエライ目にあったっけ。
ちなみに「ゴッホ」は「Gogh」と綴るけど「gh」は発音しませんからね。
「ゴッ」って読んでくださいね。
55v_3さて、展示の方はというと、ロケについての解説が多かった。
『フルメタル・ジャケット』ではベトナムをイギリスに持って来た。
そして、この作品ではマンハッタンの街をロンドンに持って来ることになった。
予算がないワケじゃないんだから、ニューヨークへ行って撮影すりゃいいじゃねーか、と思うんだけど、キューブリックはそうはしない。
下の地図はグリニッジ・ビレッジ。
エクゼクティブ・プロデューサーのヤン・ハーランの息子のマニュエルが徹底的に調査して制作した。
付箋が貼ってあるのはロンドン・ロケで使えそうなブロックの目印。
それぞれに似ているロンドンの通りの名前が書いてある。
「トッテナム・コート・ロード」、「グッジ・ストリート」、「ブリック・レーン」等々、私でも馴染のある名前が挙がっている。
30そのロケ地の候補のひとつがロンドンの東部にある「Commercial Road(コマーシャル・ロード)」という通り。
そこを新兵器のパノラマ・カメラで撮影してより正確にその雰囲気をキャッチした。

40この「コマーシャル・ロード」というのはロンドンのターミナル駅のひとつ、リヴァプール・ストリート駅のすぐ近く。

10_3 近くにスピタルフィールド・マーケットという大きな市場がある。

11_img_0193 こんな感じ。
2015年に家内と訪れたんだけど、欲しいモノはなかったナァ。

11_img_0190 それに面しているのがコマーシャル・ロード。
大分前になるけど、私もずいぶんグリニッジ・ビレッジを歩き回ったことがある。3回ほど。
でも、コマーシャル・ロードでビレッジを思い出すことは全くなかったよ。
向こうの人に目には似てるように映るのか…?

11_img_0152スゴいパノラマでしょう?
こんなに苦労してロケハンしたのに、結局バッキンガムシャーにある「Pinewwood Studio(パインウッド・スタジオ)」で撮影したんだって。
バッキンガムシャーはMarshallの本社/工場があるミルトン・キーンズのエリアね。
でも、それでヨカッタんだって。
映画に出て来るマンハッタンは「複製」ではなくて、キューブリックの「オリジナル・マンハッタン:で、「幻想と欲望」という映画を通してのテーマにマッチしていた…ということらしい。

50こっちはロンドン博物館にほど近い「Hatton Harden(ハットン・ガーデン)」という通りの調査結果。
マニュエルったら、こんなに細かくやってくれたのね~!11_0r4a0460_2宣伝用のポスター。
アメリカの公開は1999年7月19日。
キューブリックはそれに先立つこと3月7日に心臓発作でこの世を去っている。
試写会の5日後のことだった。

60撮影時のスナップ集。
シドニー・ポラックがまたヨカッタね。
ポラックは『追憶』やた『トッツィー』の監督さん。
『愛と哀しみの果て』でアカデミー作品賞と監督賞を獲得した大監督。

70元々この役はハーヴェイ・カイテルが演じることになっていたらしい。
ポラックはキューブリックより6つ年下か…。
どういういきさつで出演することになったんだろう?

80ラッシュを見る3人。
トム・クルーズは台本を受け取って、ヘリコプターでキューブリックに家へ飛んだそうだ。
飛ぶ方も飛ぶ方だけど、ヘリがそう簡単に着陸できる家って一体どうなのよ。

90映画で使われたベネチアン・マスクたち。
不気味~!
そう、その不気味さを思いっ切り増長していたのがリゲティの「Musica Ricercata(ムジカ・リチェルカータ)」というピアノ曲。
「ricercata」とは「探求」を意味するイタリア語。英語で言えば「research」だね、コレ。
キューブリックが採用したのはその第二曲。
E#とF#の2音とそのオクターブだけで構成されるキテレツな曲。そもそも「E#」なんておかしいでしょ?
でもこの曲の譜面を見ると、EとFにシャープが付けられているの。普通はFとCでキーはDになる。
要するにE#(すなわちF)とF#の音しか使わないからそうしたのだろう。
ちなみに第1曲はほぼ「A」の音だけで作られている。
こういう「探求」が11曲連なっているのが「Musica Ricercata」。
結構いいのよ。
しかし、キューブリックはリゲティが好きなのね~。

100チョット、ゴメンナサイ!!
ココでもう1回切らせて~。
次回は『シャイニング』から。乞うご期待!
 
<つづく>